家は夫婦の「かすがい」か「足かせ」か?
「家」で離婚できない!?
私も離婚経験があるためでしょう、時々、離婚準備中の方などからのご相談を受けることがあります。比較的多いのが、マイホームの処分に関してです。
夫の浮気と借金が理由で、子連れ離婚の準備を始めたAさん(会社員)は、ふと、「10年前に買ったマンションはどうなるんだろう?」と疑問に。子どもは小学5年生で、貯蓄もあまりない状態でした。Aさんはどうにかなるのだろう、と軽く考えていた様子ですが、話を聞くととても難しいケースだと判明しました。
できれば子どもとAさんで住み続けたいけれど、住宅ローンは夫が返済していて、ローンはまだ2710万円残っています。最近、売却された同じマンションの販売実績を見ても、よくて2000万円。しかも収入合算をして購入し、Aさんは連帯保証人。
売って清算するのがすっきりすると思いましたが、売っても住宅ローンを払い切ることができないため、売るに売れない状態だということがわかりました。
Aさんと子どもで住み続けるには、管理費や修繕積立金のほかに、1人で月15万円もの住宅ローンを返すことになり、ムリがあります。夫に養育費として半分負担してもらうといった方法も、夫に家賃が発生する上、また他に借金の返済がある現状を考えるとかなり難しいことです。
他に、賃貸にするという案も考えましたが、空室になるリスクが致命傷になりかねないのと、仮に借り手が見つかっても、貸主となるAさんの夫がお金にルーズなため、入った家賃をきちんとローンとして返済していけるか、その心配をしてストレスを貯め続けるのもイヤだということで、却下。
つまり…打つ手なし。「家のせいで離婚できないの?」Aさんも驚きを隠せませんでした。持ち家が足かせになってしまったのです。
Aさんはどうしたか?
Aさんにとって、2つの選択肢が残されました。1つは、離婚をしないか、無期延期をすること。もう1つは、マンションは売却して、足りない分を親などから借りて埋め合わせることです。
Aさんは「早くすっきりさせたい」と、売却をして差額を親などから借りて埋める方法を決意。親にも頭を下げて、お金を借りる約束をしました。ただし、せめてマイナス分の半分は夫に工面してもらいたいと思い、夫の実家も巻き込んで交渉していますが、離婚後の養育費なども合わせての交渉だったので難航しているようです。決まったら、公正証書に残すことをアドバイスしました。
ちなみに、私の時も急なマンション価額の下落もあって、債務超過に陥る状態でしたが、元夫がマンションを出て別のところに住み、不動産の名義も住宅ローンの名義もそのままにして、私はそれまで同様、住宅ローンの半分を負担し続けました。登記してある持ち分どおり返済を続け、夫の分を「使用貸借」(タダで借りることに)してもらったのです。結局はその後、お互いの残債分を分けて、それぞれ繰上返済をし、早々に「足かせ」をはずしました。
Aさんの例でも、安定収入があって、頼れる実家があることがポイントでした。専業主婦であったり、経済的に頼れる実家がないケースであれば、また取る方法が違ってきます。かつては仕事をしていた専業主婦の方なら、売却・清算が一番いい方法だと思いますが、親から借りられなければそれができません。そうでなければ、まず就職して安定収入を確保して、貯蓄をして…と遠い道のりとなるでしょう。単に家を出たとしても、連帯保証人の立場は残るので、住宅ローンをなくさない限り、夫と運命共同体(?)の状態は変わらないのです。
家を「足かせ」にしないためには?
ここまで読んでくると、家を買うと離婚できない、と思う方もいるかもしれませんが、そうではありません。大事なことは、債務超過に陥るような家の買い方をしないこと。つまり、頭金をしっかり入れて買うのです。
また、余力を残しておいて、可能な時に繰上返済を行なうことも大事。バブル崩壊のような下落はアンラッキーとしかいえませんが、繰上返済でローンを小さくすることで、できるだけ債務超過額を抑えたいものです。
今の時代、離婚のリスクは頭の片隅におきながら、家を買ったり、繰上返済をしたり、もっと言うなら、貯蓄をしたりすべきでしょう。
新婚Kさんからの相談
以前、新婚のKさんからご相談を受けました。結婚直前にお父様を亡くされ、少しまとまったお金(2000万円ほど)を相続したので、そのお金を全額マイホームに入れて名義を半分取った方がいいかどうか? という内容でした。ご相談はご主人に内緒で来ていました。
新居を購入するにあたり、相続で手にしたお金を住宅資金に全額入れるかどうか迷っていたのです。「家にお金を入れず、名義も取らないとなると、夫から一方的に離婚された時に、家も勝手に処分されてしまう」と心配されていました。
自分が離婚したくなったときのことを考えないのは、新婚さんだからなのか、よほどご主人を深く愛しているのか……。
でも、離婚が心配で、その際に夫を「縛る」ことが目的なら、名義は半分でなくてもいいのです。それより、離婚を心配されるなら、むしろ手元に金融資産として残した方が、離婚後の生活は助かります。
もちろん、借入れが小さいほど、ローン返済額を抑えることができます。「個人」としてのリスクマネジメントをとるか、「夫婦」としてのトクをとるか。その選択になります。
結局Kさんは、1000万円を頭金として入れ、残り1000万円を自分名義の貯蓄として残しました。あとで聞いたら、「懐刀(ふところがたな)」を残したことで、心の余裕にもなったと、おっしゃっていました。
豊田眞弓(とよだ まゆみ)プロフィール
FPラウンジ ばっくすてーじ代表
ファイナンシャル・プランナー、住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー、家計力アップトレーナー