その繰上返済ちょっと待った!

家を買うと、多くの人が取りつかれる病。それが「繰上返済しなきゃ病」です。ちょっとお金が貯まると、せっせと繰上返済をして早く借金を返してしまおうと考えます。

確かに「おトク」ですが、実は落とし穴もあります。
人によっては、その繰上返済がアダになることもあるのです。

ちょっと待った!繰上返済-1

繰上返済をしてはいけない第一のパターンが、予備費すら残さずに行ってしまうやり方です。

人生、何があるかわかりません。会社員なら生活費の3~6か月分、自営業・自由業なら6か月~1年分の「予備費」は、いつでも引き出せる流動資産として準備しておく必要があります。

生活費が月25万円の会社員で、75万~150万円が目安になり、けっこうな金額ですが、家族の病気・ケガ、リストラや会社の倒産、親が倒れたなどの「もしも」に備える「自家保険」として備えておきたいもの。

ところが、これをほとんど手元に残さずに繰上返済してしまう方がいるのです。

雑誌の家計診断で、ご主人が繰上返済好きでどんどん返済して手元にはいつも十数万円程度しかお金が残らないのは不安だ、という奥さんの悩みが寄せられたことがあります。

また、予備費を十分に残さずに繰上返済をした方で、家族が病気になって、結局フリーローンを利用することになった人もいます。

繰上返済に利息軽減効果があるのは確かですが、予備費まで充ててしまうような繰上返済は「ちょっと待った!」です。




ちょっと待った!繰上返済-2

2つ目のパターンが、予備費はどうにか残すけれども、その他の目的別貯蓄を意識しないで繰上返済をしてしまうケース。

特に教育資金が大きいと思いますが、こうした支出に備える貯蓄をせずに繰上返済を行った結果、家計によっては、教育費のピーク時に資金がショートしてしまうことも。

お子さんが2人、3人いて大学進学まで考えている、あるいは1人だけれど中学から私立に進学させたい、などの場合は特に要注意です。

たとえば、中学から私立の例ですが、教育費は年間約150万円はかかり続けます。大学卒業までの累計では約1200万円かかると見られます。

もしも教育と貯蓄に回せる可能額が年間80万円の世帯で、小学校高学年まで予備費以外の貯蓄をほとんど残さずに繰上返済をし続け、子供を中学から私立に入れたりすると、そう遠くなく資金がショートするのは明白ですよね? 妻が働くなど、世帯収入をアップする方法を検討する必要が出てきます。

これから大きな支出を控えている世帯の場合、ムリな繰上返済は避けるべきです。どうしても繰上返済を行いたいのであれば、返済額軽減型の繰上返済にしましょう。

ちょっと待った!繰上返済-3

「ちょっと待った」の3つ目のパターンが、「将来、ローンの借換えもしたい」と漠然と考えている人の場合です。

変動金利や1~3年程度の短期の固定金利選択型のローンを借りている人の中には、「金利が上がったら固定金利に借り換えればいい」と思っている人も多いはず。それまでは低金利の恩恵を受けながら、繰上げ返済で元本を小さくしておこう、と考えているのでは?

ところが、いざ借換えをしようと思った時に問題が。実は借換えをする場合、通常、以前に借りていたローンの残存期間より長く設定することはできないのです(例外もあります)。借換え前に繰上げ返済を頻繁に行った結果、返済期間が短くなってしまい、10年固定型や全期間固定型に乗り換えたいと思っても、返済負担率(<年間返済額の合計÷所得>の割合が一定以下という借入れ条件がある)の問題で借換えができないケースも。

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繰上返済はメリットはあるのですが、それによって家計が窮地に陥るようなことがあっては本末転倒。金利のメリットよりも健全な家計運営や、将来的なローン返済計画なども頭に入れた上で、慎重に行うことが大事です。

 

豊田眞弓(とよだ まゆみ)プロフィール

FPラウンジ ばっくすてーじ代表
ファイナンシャル・プランナー、住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー、家計力アップトレーナー

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